2012年の改正労働契約法・派遣法では、5年「無期転換ルール」が定められた。内容は、13年4月1日以降に有期労働契約を締結・更新した労働者は、2018年4月1日から有期契約から無期への転換を申し入れることができる(無期転換申込権)というものだ。
しかし、大手自動車メーカーの脱法行為をはじめ、大量の派遣切りが発生した。管理職ユニオン委員長・鈴木剛さんに、派遣切りの実態や対抗する労組の動きなどを聞いた。(文責・編集部)
鈴木 剛さん 1968年生まれ。フリーター全般労組結成メンバー。全国コミュニティ・ユニオン連合会会長。著書・「社員切りに負けない!」など
大学で大量の派遣切り
―派遣切りの実態は?
鈴木…ユニクロやスターバックスといった大企業が、パート社員や契約社員を(勤務地限定)正社員化する動きがある一方で、国立大学では、18年4月に向けて雇い止めの動きが相次ぎ、東大で8000人、東北大で3200人の非常勤教職員,准職員と時間雇用職員を雇い止めする方針が発表されています。
これは、無期転換をはかる改正労働契約法・派遣法(2012年)の脱法行為であり、強い批判に晒されています。
このため、私たち管理職ユニオンの上部団体である全国ユニオンと派遣ネットワークが共催して、2月に緊急ホットラインを開設しました。NHKに取り上げられたこともあって電話が鳴りっぱなしで、2日間で150件もの相談が殺到しました。
雇い止めは、多岐にわたる業種で行われています。製造もあれば、サービス業・事務職もあります。特に、大学や理化学研究所のような知的生産現場での雇い止めも深刻です。管理職ユニオンでは、大学に支部を結成し、雇い止め問題に取り組んでいます。東京富士大学では、教員の過半数を管理職ユニオンが組織しています。同大学で有期契約の専任講師が、准教授に昇進する予定だったにもかかわらず、突然、雇い止めになりました。団体交渉で「脱法行為である」と大学当局を批判し、撤回させました。
また、全国ユニオンでは、「地球科学研究所」への派遣社員として17年働き続けた渡辺照子さんが派遣切りとなり、派遣ユニオンをはじめとする労組が幅広く支援する争議となっています。派遣元との団体交渉と同時に派遣先の地球科学研に団交を申し入れていますが、応じません。地球科学研には労組があるのですが、残念ながら支援する動きがありません。雇い止め問題の象徴的な闘いです。
企業の対応は、3つに分かれています。法案成立後2年時点の調査では、3分の1の企業は、5年を待たないで早々と無期転換をやっています。連合に加盟する組合も、非正規や派遣の人を仲間にするという方針を立てています。人材不足の運送業などでは、人材確保の意味もあります。労働者にとって、雇用が安定すればモチベーションも上がります。
しかし一方で、「人件費が安いから、派遣や有期契約を使っている」と言い放つ企業もあります。その一つが大手自動車メーカーですが、クーリングオフ(6カ月以上の空白期間)を悪用して、無期転換の更新義務を逃れる形をとっています。無期転換すると人件費が増加するので回避するという、法の趣旨に反する行為です。こういう企業は、往々にして膨大な内部留保をして、役員はがっぽり収入を得ています。
残りの3分の1は、方針を決めていなかったり、制度を理解できていない状態でした。現在では、雇い止めに踏み切った、強行したというところもかなり出ています。
「派遣法」自体が問題
がんばっている労基署もあるのですが、行政改革で労働基準監督官が減らされていて手がまわっていません。派遣の人たちは、職場でハラスメントを受けても、失職を恐れて我慢してしまいます。解雇されてホットラインに相談に来るのですが、有期契約なので不利ですし、裁判費用や団交のための時間を天秤にかけて、争議よりも職探しを優先させてしまう辛い実態があります。
そもそも派遣法という、解雇を合法化・簡便化する法律自体が問題です。派遣法が成立した1986年時点で、対象業務は、通訳や秘書、会計士などの高度な専門職に限った例外中の例外だという建前でした。雇用の大原則は、直接雇用、1日8時間・週40時間労働でなければなりません。ピンハネは違法行為であり、戦後の労働改革の精神やILOの「労働は商品ではない」という原則を忘れてはなりません。
―現実は、若年層では有期契約・派遣は全体の4割まで広がっていますね。
鈴木…高齢者も、年金の需給年齢を先延ばしにされたり減額されたりするなかで、同様の問題に直面しています。貧困化は全世代的な問題です。従来の雇用構造である男性正社員中心の年功序列型社会は崩壊し、年金需給年齢も、60歳から70歳にまで引き上げられ、加えて社会保障は後退して自己責任論が蔓延しています。
シニアユニオンの結成
こうした背景のなかで、高年齢者雇用安定法をめぐる闘いが軸になって、60歳以上の雇用問題を専門に取り扱う「シニアユニオン」が結成されました。
高年齢者雇用安定法をめぐる闘いは、雇用の維持という基本方向で決着しましたが、最大の問題は賃金の低さです。人手不足の運送業では、若手に楽な仕事を与えベテランが過酷な仕事を受け持つことがあるのですが、逆に賃金が半額以下に下げられたため、「同一労働同一賃金を謳った労働契約法違反だ」として裁判を提起し、一審勝訴、二審高裁で逆転敗訴となりました。「60歳停年で給料は下がるという慣習が社会に受け入れられている」という、労働契約法を捻じ曲げた判断でした。現在、最高裁で闘っています。
同様の争議は全国に広がっており、「なのはなユニオン」では、バスの運転手さんが同様の争議で一部勝訴しています。
直接・無期雇用を原則に
労働者は商品ではありません。生活・人生に直結する問題ですから。安定雇用と、直接雇用に基づいた社会保障が必要です。労働組合運動や社会運動は、当事者である労働者の側に立つので、当然直接雇用への転換、無期雇用への転換を原則に運動していかなければならないし、制度改正にも取り組まねばなりません。安定雇用は、安心社会につながります。
安倍政権は、あらゆる領域において欺瞞的で、大企業の利益を追求していますので、本質的には自民党政権との闘いにつながっていきます。派遣切りだけではなく、「働き方改革」でも、自民党は、長時間労働・過労死を招く裁量労働制、高度プロフェッショナル雇用などを導入しようとしています。
法案審議の過程で、過労死遺族の会の中原のり子さんの意見陳述があったのですが、自民党は、新入社員の女性を過労自殺させたワタミ経営者=渡辺美樹を質問に立たせて、「あなたの言っていることを聞くと、働かない方がいいんじゃないかと言っているように聞こえる」などと失礼な質問をさせています。こんな連中に質問させるということ自体に、自民党や財界の本質が出ています。労働の領域からみても、政権を変えないととんでもないことになると考えています。
連合の中で労組の存在意義を訴える
連合がさまざまな弱点を抱えているのは事実です。しかし一方で、働き方改革に関する高度プロフェッショナル雇用や裁量労働制、また労働時間の上限をめぐって、内部で激烈な討論が行われました。私たち管理職ユニオンは、脱退勧告も辞さずという覚悟で意見を提出したら、全国ユニオンだけではなく、多くの地方や全国の産別、自治労や私鉄のみならず民間企業のゴム連合や全合金からも、率直な意見が出ました。連合執行部も真摯に耳を傾け、いい話し合いができました。
最初から諦めるのではなく、民主的に討論して、働く者のための組織としての原則を守らせることは可能です。連合は、連合組合員だけのものではなく、未組織労働者のために闘うことも重要な役割です。そもそも、組合組織率は今や17%まで下がっているのです。多くの労働者は、労働組合を知らないのです。連合は、自分の足元の非正規労働者を仲間にするとはっきり言っています。建前だけじゃないか!とか、不十分な点はいっぱいありますが、内側にいる私たちも、言うべきことは言い、労組の存在意義を訴えていくことが大事だと思っています。